INTERVIEW
「観光客」から「まちづくりの仲間」へ。美祢市が描く、ふるさと住民との新しい関係

2027年度からの本格運用が予定されている「ふるさと住民登録制度」。現在、国では制度の本格運用に向け、全国の自治体でモデル事業が進められています。
今回「ふるっぽ編集部」では、そのモデル自治体のひとつである山口県美祢市(みねし)にオンラインでのインタビューを行いました。
ふるさと住民登録制度を通じて、どんな人たちと、どのような地域との関係をつくろうとしているのでしょうか。
美祢市役所 総務企画部 地方創生監の佃(つくだ)さん、地域振興課 IJU定住促進・結婚支援室の伊賀さんにお話を伺いました。(聞き手:ふるっぽ編集長 柴山)
美祢市はこんなところ
山口県西部に位置する人口約2万人のまち。日本最大級のカルスト台地「秋吉台」や秋芳洞をはじめとする豊かな自然に恵まれ、農業や鉱業など、大地と人々の暮らしが深く結びついている地域です。

▶「美祢市を好きでいてくれる人」と、もっとつながりたい
柴山
まずはじめに、モデル事業に参加された背景・きっかけを教えてください。
佃さん
美祢市には、豊かな鉱物資源やジオパークとして認められているカルスト台地等の地質、その地質や盆地特有の寒暖差を生かした農業など、さまざまな魅力があります。
人口が減少していく中でも、そうした魅力は地域の中で守られてきました。
移住や定住までには至らなくても、美祢市を好きでいてくださる方はたくさんいます。そうしたファンの皆さんと一緒に、まちの魅力や元気を未来につないでいきたいと考えていました。

柴山
まさに、ふるさと住民登録制度が目指している「地域との継続的な関わり」と重なりますね。
佃さん
そうですね。Mine秋吉台ジオパークがユネスコ世界ジオパークに認定されたタイミングで、地域の取り組みに協力してくれる地域外の方を集めていこうと考えていました。
ちょうどその時にモデル事業の話があり、美祢市がやりたいこととの親和性が高いと感じて参加しました。
柴山
とてもいいタイミングでしたね。ところで、美祢市は元々一つの自治体だったんですか?
佃さん
今の美祢市は、 旧・美祢市、美東町、秋芳町の3つのまちが2008年に合併して誕生しました。Mine秋吉台ジオパークでは、それぞれの地域を代表する地質や歴史遺産を「白・黒・赤」の3色でテーマ化しているんですよ。
石灰質の大地が広がり、秋吉台や秋芳洞で知られる秋芳町(白)。
鉱業を中心に発展してきた旧・美祢市(黒)。
かつて銅の産出地として知られ、現在は梨やごぼうなどの農産物も盛んな美東町(赤)。
それぞれ異なる歴史や産業、自然を持つ3つの地域が一つになっていることが、美祢市の大きな特徴です。

▶ 移住だけをゴールにしない。「何度も来てくれる人」を増やす
柴山
では、そんな多彩な魅力を持つ美祢市が、今回のモデル事業を通じて特に実現したいこと、また、ふるさと住民登録制度に期待していることは何でしょうか?
佃さん
まずは、美祢市のファンでいてくださる皆さんや、もともと美祢市にゆかりのある方々と一緒に、この事業に取り組んでいきたいと考えています。
美祢市は決して大きなまちではありません。そのため、最初から「移住・定住」をゴールにして、多くの人に来てもらうというのは、正直なところ難しいと思っています。
一方で、美祢市は交通アクセスに恵まれています。だからこそ、まずは美祢市を応援してくださる皆さんに、今まで以上に何度も足を運んでもらえるような関係をつくっていきたいですね。
そして、美祢市の人たちが「こんなことをやってみよう!」とアクションを起こしたときには、市外のファンの皆さんにも、単に応援するだけではなく、一緒に動く「プレイヤー」として参加してもらいたい。
そんな関係を、このふるさと住民登録制度を通じて少しずつ育てていければと思っています。
柴山
確かに、ふるっぽの美祢市のページで地図を見てみると、新幹線の駅や空港も比較的近くて、アクセスの良さを感じました。移住はもちろん、二地域居住もしやすそうな立地ですよね。
佃さん
そうなんです。実はアクセスが良いからこそ、昼間人口と夜間人口にも差があります。美祢市に住んでいる方だけでなく、市外から美祢市へ働きに来ている方も多いまちなんですよ。
▶ 秋吉台を「見る」だけでなく、「一緒に守る」
柴山
その目標の実現に向けて、現在はどのような取り組みを予定されているのでしょうか?
佃さん
秋吉台はいわゆる「人工草原」で、人の手が入ることで維持されてきた場所なんです。

佃さん
そして、この草原を維持することは、地下に広がる秋芳洞や、そこを流れる水を守ることにもつながっています。さらに、その水の恵みは下流にある宇部市や山陽小野田市の産業にもつながっています。
つまり、「秋吉台の草原を守る」ということは、美祢市だけではなく、周辺地域にとっても非常に重要な活動なんです。ただ、その草原を維持していくための人手が足りていないという、大きな課題を抱えています。
そこで、この秋に立ち上げを予定しているのが、「秋吉台カルストガーディアンプロジェクト」です。

柴山
すごく面白そうなプロジェクト名ですね。具体的には、どのような取り組みになるのでしょうか?
佃さん
山口県内のプロサッカーチーム、レノファ山口FCなどとも連携しながら、草原での自然体験と草原維持活動を組み合わせた、新しいツアーをつくろうと考えています。
単に観光で訪れるだけではなく、楽しみながら秋吉台の自然に触れ、同時に環境保全にも関わっていただく。そして、その活動を「ふるさと住民登録制度」の担い手活動につなげられる仕組みを目指しています。

佃さん
まずはツアーを通じて、美祢市や秋吉台が持つポテンシャルを知ってもらう。そこを入口に、次はもっと深く地域の活動に関わってもらう。
そんなふうに、「訪れる人」から「地域を一緒に支える人」へと関係が深まっていく流れをつくっていきたいと思っています。
柴山
なるほど。秋吉台の草原維持以外に、今後はどのような活動を想定されているのでしょうか?
佃さん
そうですね。地域にはさまざまな困りごとがあります。ただ、「人手が必要だから来てください」というだけでは、なかなかうまくいかないと思っています。
地域側にきちんとした「受け皿」がなければ、せっかく参加したいと思ってくださる方がいても、実際の活動につなげることができません。だからこそ、地域の課題と、関わりたい方をつなぐマッチングは丁寧にやっていく必要があると考えています。
もともと山口県では、地域活動に取り組む方々の団体設立や体制づくりを支援する取り組みがあります。そうした支援も活用しながら、まず地域側の受け入れ体制を整えていく。
そして、受け皿がきちんとできた地域や活動から、今回のモデル事業ともつなげていけるよう、準備を進めているところです。
▶ 欲しいのは「たくさんの登録者」より「関係の太い仲間」
柴山
美祢市としては、どんな「ふるさと住民」とつながりたいですか?
佃さん
単純に多くの人とつながるというより、「関係性を太く持ってくださる方」とつながりたいですね。美祢市を本当に好きになって、将来やまちづくりについて一緒に考えてくださるような方です。
もちろん、美祢市のすべてを背負ってください、という意味ではありません。
好きなことだけでもいいんです。
「自分が好きな美祢市のこの部分を、どうしたら未来につないでいけるだろう?」
そんなことを一緒に考えてもらえたらうれしいですね。
柴山
地域外の方とのつながりをつくっていくために、特に力を入れていることはありますか?
佃さん
そうですね。美祢市での「暮らし」を実際に知ってもらえるようなツアーには、力を入れて取り組んでいます。
今は、場所にとらわれずにできる仕事も増えていますよね。だからこそ、仕事以外の時間、つまりプライベートを美祢市でどう過ごせるのかを、実際に来て感じていただきたいと思っています。
観光地を巡るだけではなく、「ここで暮らしたら、どんな毎日になるんだろう」とイメージしてもらえるような機会をつくっていきたいですね。

柴山
なるほど。「観光」だけではなく、「暮らし」に注目されているんですね。
では、美祢市での暮らしも含めて、市外の方に「まずはこれを知ってほしい」という地域の魅力や特徴を教えていただけますか?
佃さん
Mine秋吉台ジオパークは、観光資源としての魅力はもちろんですが、実は農業や産業、文化など、私たちの暮らしそのものと深くつながっています。
梨やごぼうといった特産品にも、この土地の地質だからこそ育まれてきたものがありますし、石灰石の採掘場を舞台にした花火大会もあるんですよ。

佃さん
他の地域のジオパークと比べても、美祢市の場合は「大地」と「人々の生活」がとても密接につながっている。そうした自然と暮らしのつながりそのものが、美祢市ならではの魅力だと思っています。
柴山
カルスト台地が、観光だけでなく、産業や食、暮らしにまでつながっているんですね。
では今後、「ふるさと住民」になった方には、どのように地域と関わってもらいたいですか?
佃さん
最初はライトな関わり方からでいいと思っています。まず美祢市を知って、訪れて、楽しんでもらう。そこから少しずつファンになっていただけたら嬉しいですね。
そして、その先では「まちづくりの一員」として関わっていただけたらと思っています。
例えば、お祭りに参加したふるさと住民の方から、「今年はここがうまくいかなかったけど、来年はこんな工夫をしてみようよ!」という声が自然に出てくるような関係です。
一度参加して終わるのではなく、次の年、そのまた次の未来へとつながっていく。そんな継続的な関わりを、ふるさと住民の皆さんと一緒につくっていきたいですね。
▶ 美祢市だけで完結させない。自治体同士で「ファン」をつなぐ
柴山
制度を実施する上で課題や不安に感じていることはありますか?
佃さん
ふるさと住民登録制度はアプリへの登録が必要になるので、美祢市の仲間になってほしい方々が、実際にどのくらいアプリをインストールしてくださるのかという不安はあります。
それと、これは美祢市だけで取り組んでも、うまくいかないのではないかとも考えています。
山口県内の自治体や、同じようにジオパークを持っている自治体などと連携して、「共有のファン」のような形で、お互いの魅力を伝えていくことも大切ではないでしょうか。

佃さん
その上で、同じような想いを持っている自治体がどれくらいあるだろうというのは、気になっていますね。
柴山
確かに、日本全国の「洞窟がある自治体」同士で横につながるような取り組みができても面白いですよね。
弊社が運営する「ふるっぽ」には、興味・関心のあるタグから自治体を探せる機能があります。現在「洞窟」というタグはありませんが、例えば今後、そうした共通のテーマから地域を知り、全国の洞窟ファンと自治体がつながっていく。
そんなふうに、地域を越えて同じ「好き」を持つ人たちとのつながりも生まれていったら面白いなと思います。
編集部メモ|実は、全国の鍾乳洞はすでにつながっていた!
取材後に調べてみると、「日本観光鍾乳洞協会(https://shonyudokyokai.com/)」という全国組織がありました。秋芳洞をはじめ、岩手県の龍泉洞、福島県のあぶくま洞、東京都の日原鍾乳洞、長崎県の七ツ釜鍾乳洞など、全国9つの観光鍾乳洞が参加しています。
▶ 「行ってみたら、いい町だった」――まずは美祢市へ
柴山
最後に、今後挑戦してみたい取り組みや、将来的な展望があれば教えてください。
佃さん
美祢市では、「Mine秋吉台ジオパークを守り、活用すること」と「地域の活動に参加してもらうこと」を、大きな二つの柱として考えています。
ただ、それ以外にも美祢市には、魅力的な活動をされている団体がたくさんあります。今後は、そうした活動に地域外の方を受け入れられる体制をしっかり整えた上で、その魅力を広く発信して、より多くの方に関わっていただけるまちにしていきたいと思っています。
柴山
ありがとうございます。ここまで佃さんを中心にお話しいただきましたが、最後に伊賀さんからも一言いただけますか?
伊賀さん
はい。地域外の方から「美祢市、実際に訪れてみたらいいまちだったよ」と言っていただくことがよくあるんです。
今はインターネットでいくらでも情報を集められる時代ですが、美祢市の魅力は、やはり実際に来て、自分の目で見て、感じていただくのが一番だと思っています。
ふるさと住民登録制度をきっかけに、ぜひ一度、美祢市に足を運んでいただきたいですね。

柴山
実際に足を運んで、体験してこそ分かる魅力がたくさんあるんですね。「秋吉台カルストガーディアンプロジェクト」、私もぜひ参加してみたいです。
本日はありがとうございました。
編集後記|「一度行ったことがある」も、立派な地域との縁

九州や中国地方に暮らす人の中には、「修学旅行で秋吉台に行ったことがある」という方も、意外と多いのではないでしょうか。
今回のお話を聞きながら感じたのは、「一度訪れたことがある」という経験も、地域との大切な“縁”になるのではないかということでした。観光地は、一度訪れたらそれで終わりではありません。
子どもの頃に修学旅行で訪れた場所を、大人になってもう一度訪ねてみる。いわば、「大人の修学旅行」です。
今度は秋吉台や秋芳洞を見るだけではなく、地域の文化や産業を知り、地元の人たちと話し、食を味わう。
そして、その先に地域の活動への参加があれば、かつての「観光客」が、今度は地域を応援する「ふるさと住民」として帰ってくることもあるかもしれません。
「昔、一度行ったことがある」から、「もう一度行ってみたい」へ。
そして、「また関わりたい」へ。
美祢市には、そんな一度生まれた縁を、もう一度つなぎ直せる可能性がある。今回のインタビューを通じて、そんなことを感じました。
(執筆:幸森 彩香 / 校正:ふるっぽ編集部)